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未来への署名:vLEIが財務、ESG、その他報告書のデジタル検証可能性を実現する仕組み

財務およびESG報告の状況は進化し続けており、今週フランクフルトで開催される国際金融標準会議でも重要な議題なることが見込まれています。GLEIFのCEO、シュテファン・ヴォルフは本記事でテクノロジーと規制が財務報告におけるLEIの役割をどのように進化させてきたか説明します。また将来の義務化に備えて、vLEIによって取引主体がデジタル報告書でESG認証をどのように擁護できるようになるかを探ります。


著者: シュテファン・ヴォルフ

  • 日付: 2023-11-21
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企業の透明性を高めるために取引主体に課される義務は、特にESGと財務報告において進化し続けています。しかしESGが真に信頼に足るものとなるために、財務報告のサブセットとして、かつ単独の要件として、グローバルな気候情報のアーキテクチャの必要性が切実です。

そしてこのようなアーキテクチャを構築するには、関係する取引主体を識別し、認証する普遍的な方法を確立することが条件となります。ESGデータを標準化する取り組みは進化し続けており、業界の専門家の意見では、新しいESGデータセットを既存のデータ・インフラストラクチャへシームレスにつなげる際に、一貫性を保持し相互運用性を可能にするこうした識別子が不可欠なツールになると強調されています。この点で成功すれば、企業は標準外の識別子やデータセットを統合するよりはるかに早く、貴重な知見を得ることができるようになります。たとえば、投資家がESG要素全体で企業の業績を分析する場合、温室効果ガスの排出を生み出す活動に従事している主体を明確に特定するなどして、気候関連の影響を分析し理解できるようにする必要があります。

一意かつ明確な手段で取引主体を識別することは、物理的リスク、移行リスク、責任リスクを特定する上で不可欠です。こうした記述に下線が引かれているのが、金融システムグリーン化ネットワーク(NGFS)進捗報告書です。これは83の中央銀行と金融監督機関のネットワークによって作成された報告書で、既存の気候関連データにアクセスして利用する際の大きな障害は、気候関連データと金融データを結び付けるために重要な固有識別子がないことであると強調しています。

このブログは、財務、環境、社会、ガバナンス(ESG)及びその他全ての非財務報告において、デジ タル検証可能性の強固な保証を提供する上での取引主体識別子(LEI)と検証可能なLEI(vLEI)の役割 を探求します。

「報告書の背後にある取引主体」を確認する

GLEIFは、組織とその代表者のIDと真正性を確保することに重点を置く一環として、「報告書の背後にある取引主体」を明確に識別する最も効果的な方法として、LEIデータの活用を長年提唱してきました。

2020年、欧州証券市場庁(ESMA)は、資本市場に関与する企業が公表する年次財務報告書は、欧州単一電子フォーマット(ESEF)として知られる一貫したデジタル構成に従うことを義務付け、その中にLEIも埋め込むることで、このプロセスを正式化しました。この義務付けは、グローバルLEIインデックスに保有されるLEIレコードで利用可能な当該主体の否認不能な識別データに、クリック数回でアクセスすることを可能にすることにより、財務報告の透明性を高め、当該セクター全体の信用を強化しました。

デジタル署名の進化

財務報告プロセスがこれらのデジタルフォーマットを採用するように進化するにつれ、GLEIFは、LEIが報告書のデジタル認証情報に組み込まれ、最大の透明性を支援するために読者が容易にアクセスできることを確保するため、これを可能にする技術と協働してきました。

従来、デジタル証明書は、電子メール、契約書、請求書、およびその他の形式のデジタル通信や文書の暗号化および認証など、本人確認要件を満たすために使用されてきました。デジタル証明書は、特定の使用例に合わせて認証局およびトラストサービスプロバイダーによって発行されます。各証明書には、必要な識別情報とトラストチェーン(発行階層)の詳細が含まれ、証明書が無効となり使用できなくなる終了日がエンコードされています。このような特性により、デジタル証明書は、今日のリッチなデジタル環境では柔軟性に欠け、特に大規模に展開される場合、そのライフサイクル管理に問題が生じることが多く、管理上の非効率、コスト、複雑性が高くなります。デジタル証明書を使って署名する場合、署名者は保護された暗号化キーを保持し、その証明書を使って単独で文書に署名することができます。しかし、すべての証明書が異なる暗号識別子を使用することが一般的であるため、同じ取引主体または個人に対して発行されたすべての証明書を完全に追跡することは事実上不可能です。

このような課題に対処するため、GLEIFはLEIを活用した新しい形の標準化されたデジタル組織IDを創設するマルチステークホルダーの取り組みの先駆者となっています。vLEIは、検証可能な認証情報のW3C標準をベースにして拡張したもので、組織とその公式および機能的な役割を担う主要な代表者の両方が、年次報告書内の個々のセクションにデジタル署名することができます。また、報告書全体に署名することで、報告書の読者に対して、より強固な真正性の保証を提供することができます。

vLEIは、デジタルな手法で信頼されるバージョンのLEIとして、「信頼せず、常に検証する」という理念を組織IDに生かします。

デジタル証明書とは異なり、vLEI認証情報は、発行および失効に中央組織を必要とせず、有効期限も必要ありません(発行されるユースケースにとって望ましい場合を除きます)。そうではなく、vLEI発行者(QVI)から企業にvLEI認証情報を発行できるトラストチェーンが確立されます。企業は従業員、顧客、サプライヤー、またはメンバーなどに紐付けられたvLEI認証情報の生成を管理でき、その際QVIに立ち戻る必要はありません。

vLEI認証情報は、永続的に変更されることのない明確な識別子と見なすことができますが、たとえば、LEIを保持する取引主体が取引を停止した場合、または個人がvLEIの役割認証情報が既に発行されたポストを離職した場合など、状況が変化した場合には、迅速かつ包括的に失効させて、新たな認証情報を代わりに発行することができます。重要なのは、KERI(Key Event Receipt Infrastructure)プロトコルの使用により、vLEI資格情報の失効は、すべての「ダウンストリーム」アプリケーションに自動的に通知されるため、取引主体が消滅した場合、従業員、顧客、メンバーなどに生成されたすべてのvLEI資格情報が同時に無効になることです。これらの属性により、証明書のライフサイクル管理で現在発生している問題の多くが解決されます。

2021年、GLEIFはvLEIを使用して年次報告書(およびそれに含まれる財務諸表)に署名する慣行を開始しました。報告書全体にGLEIFのCEOおよび取締役会長が署名しており、GLEIFの最高財務責任者およびGLEIFの監査人は特定の内容に署名するために個々のvLEIを使用しました。これは、「報告書の背後にある取引主体」が(LEIの提示によって)確認されるだけでなく、各セクションの信頼性がその作成責任者によって確認されることも意味します。

未来への署名: 将来の義務を見据えたESGおよびその他の非財務報告の有効化

財務実績などの従来の要素に加えて、世界中の取引主体は、ESGの資格に基づいて投資家、顧客、その他の利害関係者から評価されることが増えています。これにより、組織にはESG指標を追跡して報告するという新たな要求が課せられています。しかしESG報告書が持つ可能性を完全に発揮するには、データ収集を包括的かつ標準化された事業体の識別から開始し、サプライチェーンに沿って行う必要があります。このような事業体の識別を実践せずに、有意義なESG報告書に必要な適時性、正確性、信頼性を達成することは不可能です。

現在、この分野には標準化の取り組みが存在しません。したがってESGデータの検索、比較、利用が困難であるだけでなく、非効率的でコストのかかる、欠陥の多いシステムとなっています。またこのシステムは透明性を欠き、グリーンウォッシュや誤解を招く他の行為を生じさせる隙に満ちています。この状況は長くは続かないでしょう。例として、今年6月、United Nations Development Programme (UNDP)、Global Legal Entity Identifier Foundation (GLEIF)、Monetary Authority of Singapore (MAS)の三者は本日、全世界の零細・中小企業(MSME)向けデジタル環境・社会・ガバナンス(ESG)認証情報の開発を目的とする共同イニシアチブ立上げ趣意書に署名しました。ESG認証情報の作成に向けた統一的なアプローチを支援する他のイニシアチブも、今後続々と登場することでしょう。

LEIとvLEIのエコシステムは一体となって、企業のESGパフォーマンスを追跡し報告するための、強力で、機械的に読み取り可能な、複数管轄権を有するシステムを提供します。LEIが提供する360度のビューにより、LEIを保有する事業体は子会社を通じたグリーンウォッシング活動を隠蔽することができません。さらに現在では、事業体の活動を管轄する指定当局向けに作成された個別のvLEI資格情報を用いて、事業体による報告の正確性を検証し、署名することが可能となっています。

ESMAが財務報告におけるECEFを導入したように、この種の報告に一貫した構成を義務付けるESG規制が導入されるのはいつ頃になるのでしょうか。vLEIは、義務化された財務報告や非財務報告の内外で、デジタル報告における透明性、真正性の検証、説明責任を高めるために活用することができます。その実践を通じて、幅広い公益に貢献するLEIデータの現在進行形の意義と、将来的な意義が再び大きな注目を集めています。

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著者について:

シュテファン・ヴォルフはGlobal Legal Entity Identifier Foundation (GLEIF)のCEOです。2023年、彼はドイツ国際商工会議所(ICC)の理事に就任しました。2021年には、グローバルICCデジタル標準イニシアティブ(DSI)の下部委員会として新設された産業諮問委員(IAB)に任命されました。この任のもと、信頼できる技術環境に関するワークストリームの共同議長を務めています。ヴォルフ氏は、2017年1月から2020年6月まで国際標準化機構金融専門委員会FinTech専門諮問グループ(ISO TC 68 FinTech TAG)の副コンビナーを務めていました。2017年1月、ヴォルフ氏は、One World Identityが選ぶトップリーダー100人のひとりに選ばれました。ヴォルフ氏は、データ処理およびグローバルな実施戦略の確立に関して、豊富な経験を持っています。彼はキャリアを通じて、主要なビジネスや製品開発戦略の発展をリードしてきました。また、彼は1989年にISイノベーティブ・ソフトウェア社を共同設立し、初代専務取締役を務めました。その後、同社の後継企業であるIS.テレデータAG取締役会のスポークスマンに選ばれました。同社はその後、インタラクティブ・データ・コーポレーションに買収され、ヴォルフ氏は最高技術責任者に就任しました。彼はフランクフルト・アム・マインのJ.W.ゲーテ大学で経営学の学位を取得しています。


この記事のタグ:
デジタル識別, 検証可能なLEI(vLEI), ガバナンス, オープンデータ, グローバルLEIインデックス, Global Legal Entity Identifier Foundation (GLEIF)